与謝野町の観光、商業振興、お土産開発、郷土への愛着促進、さらには遊休農地の解消までを視野に入れた百商一気「桜プロジェクト」。一見壮大で夢のような話かと思いきや、「食べる桜」はたった数年で生産体制を整え、和菓子屋や高級料理店に出荷中です。

商業と農業の有志メンバーで結成された百商一気が手掛ける食べる桜の栽培場所、そして加工工房を訪れてみました。

子供たちが自慢できて、帰ってこれる町へ

百商一気は2016年から地元の商店街団体「くすぐるカード会」が中心となり、地域商業の活性化を目的として立ち上がりました。百以上の商店・人が一気一丸となって動いていく取り組みという思いを込め、「百商一気」と命名。現在では合同会社として立ち上げ、農家だけでなく眼鏡屋、和菓子屋、ガソリンスタンドなどなど様々な商業メンバーが23人で構成されています(2023年現在)。

そして、地元を元気にしたいという思いの中、様々な企画を考え取り組みを行う中で、「子供たちが自慢できて、帰ってこられる町にしないといけない」という課題が持ち上がりました。

そこで、日本人が一番愛する「桜」を切り口にプロジェクトが発足。商業振興や誘客はもちろん、郷土への愛着の促進を考えたプロジェクトです。非常に長い年月を必要とする取り組みですが、「与謝野の良さを1000年後も語れる町であって欲しい。」という思いをつなぎ、メンバーの皆さんは今から行動を開始しました。

見る桜&食べる桜のダブル構想がスタート

百商一気桜プロジェクトでは与謝野駅の近くにある土地に、まず330本の桜をオーナー制で植樹。今後も年々増やしていく予定となっています。
与謝野町では、かつての加悦鉄道の線路跡が現在はサイクリングロードとなっており、百商一気の当初の思いとして「サイクリングロードを桜並木にしたい」という夢がありました。しかし、現実的に考えると土地の面積など様々な問題が浮上します。そこで発想を転換し、与謝野町内にいくつかの桜の名所をつくり、サイクリングロードがそのための幹線道路となれば、と考えるようになりました。

町の有志メンバーが協力し、植樹と管理を継続している現在。でも、百商一気の構想はそれだけにとどまりませんでした。

「初めは見る桜から始まってね。でも、いつか観光で見に来られる人が増えてくると、そしたら何か食べるものないか?ということになりますよね。そこで、見る桜、食べる桜の2通りでいこうということになったんです。」と話すのは、百商一気代表の小長谷さん。こうして百商一気の桜プロジェクトは、またたく間に見る&食べるのダブル構想として前進し始めたのです。

「食べる桜の葉」は無農薬栽培で進行中

現在、百商一気では「食べる桜の葉」を無農薬で栽培。すでに商品化され、各地のレストランやホテル、メーカーなどに出荷されています。

「2年間、京都府立大学の地域貢献型特別研究テーマということで、実際に教授や学生さんが来てくれましてね。暑い中だったけど、いろいろ研究してもらって。無農薬栽培もそのあたりから始まったんですけどね。桜の葉の全体の6割は中国産で、農薬使われてますよね。それからすると効率は悪いんだけど、手間をかけてでも付加価値をつけていきたいですよね。」

小長谷さんのお話によると、食べる桜の発祥は静岡県の伊豆。適地適作で、環境として食べる桜に向いている地域だと言います。一方、与謝野町は雪も降るような地域。本当に環境が合うか合わないか分からないままのスタートで、現在も試行錯誤の連続だと言います。


「伊豆のほうでは株の間が60センチで密集していて。でも我々は無農薬でやるということで、やっぱり日当たりや風通しを整えないとアカンのちゃうか?ということで、今では1m50cmや2mでモデル圃場をつくって試しています。コガネムシが天敵なんだけども、だけど去年はだいぶ少なくなったかな。」

圃場では無農薬栽培のため、草がたくさん生えた状態になっています。その中で様々な虫も共存共栄している状態。「虫対策と、草刈りがほとんどの仕事です」と小長谷さんは笑って話してくれました。

実際に、どんなに夏の暑い時期でも、草刈りを後回しにしてしまうと逆に草が固くなってしまい、刈るのが大変になるとか。そして、草が増えるとミミズが増え、イノシシが増えることもあり、草刈りが獣害対策にもつながるそうです。雑草が固くなって刈りにくくなる前、膝の丈になるまでに暑くてもでかけて、草刈りをするのが大きな仕事となっています。

手作業での選別と安心安全な加工

与謝野町に桜の名所をつくり、来られた方の食事やお土産にも活用できるようにと始まった、食べる桜のプロジェクト。現在、町内に工房をかまえ、その桜の葉の洗浄・選別・加工の作業が行われています。

「桜餅なんかに使ってもらえる、柔らかい葉っぱだけを収穫して、約半年間塩漬けして、飴色になったらメーカーなどに出荷しています。加工は本当に塩だけで。安心安全な品ということですね。」

工房では葉っぱをきれいに洗浄したあと、選別の係の皆さんが手際よく葉っぱのサイズを測り、サイズごとに仕分けをされていました。その後、50枚に束ねてくくり、樽に入れて塩漬けしていきます。規格外のサイズでもペーストにするなど商品としての使い道があるとのこと。

現地で塩漬けにされた樽の蓋をあけ、見せてもらったところ、蓋を開けた瞬間から桜のいい香りが!食べる前からこれだけの香りがするのだから、口に含めばその風味はさらに広がることでしょう。

高級レストラン等で使われる品質に

この食べる桜は、現在高級品として、和菓子屋さんの桜餅にはもちろん、料理屋さんや高級ホテルのレストラン等でも使われているとのことです。

「一般的にはお菓子屋さんにはちょっと高いけども、高級なレストランなんかではやっぱり、安心安全なものをということで、使ってくれています。最近では天橋立の幽斎さんですね。あちらでは、緑のままの葉っぱが欲しいと言われて、3日ぐらいの浅漬けにして出されていました。非常に美味しかったですよ。」

信念をもって作られた素材を、信念をもった料理人が使う。こうして、安心安全な、品質の良いものを出すことで、その背景ストーリーも伝えることができる。「お客様にも説明できるし、非常にいいことだよね。」と小長谷さんは話します。

与謝野町では近年「桜うどん」が完成。地元の菊水食品株式会社により、桜ペーストを用いて加工したうどんが開発されました。「百商一気のシールも貼ってもらっています。そんなふうに、桜関係の商品をたくさん作って欲しいですね。」

遊休農地の解消にもつながるプロジェクト

「桜のプロジェクトは観光やお土産開発なんかももちろんだし、地域の雇用もなんだけど、それプラス、遊休農地の解消ですよね。今、遊休農地が増えてるでしょう。どの地区も困ってますよね。そこを僕らがアドバイスしたりして遊休農地を克服できたらいいですよね。与謝野町が先陣をきってこういう新しいことをしていけたらと。」

小長谷さんは百商一気の「百商」だけでなく、農地を守り、地域を守ることにまでつながる思いを語ってくれました。農地が荒れると、ダムの役割をしていた水田が機能しなくなって洪水が起きたり、草が生えすぎて獣害につながったりと、様々な問題が起きます。つまり、農地が使われていないという問題だけではないのです。

百商一気ではこれらの背景をうけて、様々な地域課題をこの桜プロジェクトで解消していこうという考えで活動をされています。見る桜が育つまでには、まだまだ長い年月がかかりますが、それでも今から始めていく。いつか町内に名所が増えていったときには、彼らの活動が語り継がれていることと思います。
そして食べる桜の名品も、きっとこの町に増えていることでしょう!

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