無農薬にいち早く取り組み、有機JAS取得
伊達農園は2000年から無農薬栽培に取り組み、2016年には有機JASを取得した地域の農業のパイオニア。栽培する米のほとんどを特別栽培米以上のグレードで生産しています。「安心安全、環境にも優しく、美味しいお米」を目指し、現在も研究を続けられています。
シーズンには、毎週水・金・土を基本に直売所にて販売するイチゴも、売り切れが続出するなどとても人気。直売所では無農薬野菜も販売されています。
作物の病気で打ちのめされた就農初期
代表の伊達良一さんは、1985年から就農。それまではサラリーマンだった伊達さんが、父親の死をきっかけに後を受け継ぎ、農業で自分の道を歩むことを決意されました。「その当時、僕は絶対、農業で食っていってやるぞ、と信念を持って始めました。でもそんなに甘くないのが現実でした。」と伊達さんは語ります。
当時は栽培できるものが水稲(米)しかなく、地域的にみてもお米以外の作物を作りにくい環境であるといいます。一方、同じ与謝野町でも隣の加悦地区では様々な作物が育てられていました。それでも、当時はお米も一定の価格で販売できたことから、安心感はあったそうです。
しかし、農業には自然の変化がつきもの。ある年「いもち病」によって稲が大ダメージを受けてしまいます。
「5〜6000千本の苗が全滅でした。次から次に枯れていって。その時はほんとうに、情けないような、涙も出ないような…」そのような経験が、過去3回はあったといいます。
ところが、このような経験をされながらも伊達さんはくじけることはありませんでした。美味しい農作物を作ることはもちろん、そもそも農業を持続可能なものとするために、2本目の柱となるイチゴ、3本目の柱となる玉ねぎの栽培など、様々な作物にチャレンジしていったのです。
現在、伊達農園では水稲のほか、イチゴ、玉ねぎ、キャベツ、メロン、京都大納言(小豆)、丹波黒大豆など様々な作物を手掛けられています。
年々人気が高まる伊達農園のイチゴ
年々人気が高まり、常に売り切れ状態になる伊達農園のイチゴ。畑のすぐ横に併設された直売所でしか買えない、という点も特徴的です。
「(水稲の病気のことなどもあって)経営を安定させるために、リスク分散しないと絶対にだめだ、と思いました。その頃に始めたのがこのイチゴで、園芸栽培に取り組む最初のきっかけになりました。」
しかし水稲と同じく、伊達農園のある与謝野町の石川地区は、決してイチゴ栽培に適した場所ではありませんでした。そもそも、北部地域である与謝野町では、イチゴ栽培は難しいのです。「太平洋側はイチゴに向いてるんですが、(与謝野では)技術的に難しいですね。雪が降る地域での栽培はリスクがあります」と伊達さんは語ります。実際に、イチゴ栽培をしていた当地域の農家は撤退してしまい、伊達農園ともう1件という状況になりました。
おいしさの秘訣は、土づくりへの信念から
それでも人気のイチゴが栽培できる秘密は何なのでしょうか?
「とにかく勉強と、技術鍛錬です。勉強すれば、なんとかクリアできます。土づくりが大事なので、うちでは自分たちで作った堆肥を使って栽培しています。堆肥をふることによって、土が肥料をかかえてくれて、必要な時には出してくれる、ということが出来ていると思います。」
やはり、ただマニュアル通りに栽培するだけでは実現できない秘訣がありました。伊達さんは「でも、堆肥が効果があるかどうかなんて、最初は分からないんです。自分でやってみて、理解して、という勉強をしようという気持ちがなければ、こんな邪魔くさいことはできないと思います。」と笑って語ってくれました。
伊達農園では伊達さんが農業を継いだ頃からずっと、牛糞堆肥を自作しているとのこと。堆肥づくりは非常に手間のかかる仕事のため、それを行う農家は非常に少ないといいます。
「堆肥を入れたら完璧にできると、最初は素人考えで思っていましたけど、そういう意味ではないです。信念をもって、堆肥を入れたら、作物に障害を与えない、ということを心底思ってないと、なかなかできないですね。」
楽な方法よりも「健全に育てること」にこだわる
今回、イチゴ苗の定植の様子を取材しました。この日は小雨が降る中での作業。実はイチゴ苗を植えるのは、雨の日のほうが水の状態がよく、適しているそう。9月ごろは、晴れた日は稲刈り、雨が降ると稲刈りができないのでイチゴを植える、というサイクルを繰り返すそうです。
イチゴを栽培するハウスに足を踏み入れると、畝間(通路の部分)は完全に水たまり状態。そして、畝(うね)は非常に高く盛ってあることが目に付きます。一見、水はけが悪いのでは、と思ってしまいますが、この水たまりは、意図してこのようになっているようです。畝を高くし畝間に水を張ることで、イチゴが水を吸収しようと根を張らせ、丈夫な根はりになるとのこと。雨の直後ですが畝の上部は適度に乾いていることが分かります。この状態から、イチゴが水を求めて根を伸ばすのですね。
ただ昨今では、イチゴは高設栽培されている農園もよく目にします。そのほうが立ったまま作業ができるので、負担が軽そうですが、伊達農園の栽培方法はご覧の通り。
なぜこの方法をとるのか、伊達さんに聞くと「強くて健全なイチゴに育てるためです。作業はほんとに大変なんだけど(笑)」と笑って答えてくれます。
楽な方法よりも、健全に育てることにこだわる、伊達農園の信念がここにありました。
安全志向な作物をつくる、無農薬への取り組み
伊達農園の特徴は、単に美味しい米・野菜・果物を作る、というだけではありません。それが、常に時代に先駆けて取り組んできた無農薬栽培。2000年から無農薬栽培に取り組み、2016年には有機JASを取得しています。
「水稲、イチゴ、玉ねぎ。3本の柱がだんだんできる中で、先輩方に教えていただきながら、安全志向の作物をつくる、ということを目指すようになりました。」
現在では、安全志向というと、比較的一般的な考え方になっています。しかし、当時はそうではなく、かなり先進的な取り組みでした。「普通の人から見たら、違和感があったと思います。無農薬栽培は、草ぼうぼうになりますので(笑)。バカにされるようなこともありました。」
しかしその後、無農薬栽培、安全なお米というものが市民権を得て、徐々に注文が増えていったと言います。その後、伊達農園ではイチゴ、玉ねぎ、メロン、小豆など様々な作物に対して無農薬のノウハウを応用し、改善していきました。
現在伊達農園では、一部の米を完全に無農薬で栽培、残りのほとんどを特別栽培(低農薬)で栽培しており、「京のプレミアム米コンテスト」など、様々な受賞歴もあります。
地域を守るという気持ちを底辺に
伊達さんは、「農家は、辛抱のいい職業だ」といいます。
農業は、単に水田や畑の世話だけしていればいいわけではありません。水路の掃除や獣害対策のフェンス設置など…様々な仕事が付随してきます。それでもなぜ農家を続けるのでしょうか?
「農家は儲かる、なんてイメージは無いです。獣害とか、災害とか、地域を守るという気持ちを底辺に持ってないと、続けられないですね」
農家が農業をすることで守られている「農地」。これを放置すると草などで荒れてしまい、獣害が増えることになります。また、実は水田はダムの役割を持っており、大雨が降った際に水を蓄える機能を果たしています。つまり、農地があれると洪水などの災害が起きることに。
伊達さんは、これを守り抜くには大規模農家の力だけでなく、中小の農家や隣組の力が重要と言います。利益のためだけでなく、地域のために農業を続ける。ここにも、伊達農園、そして農家の理念がありました。
「土地に愛着があったり、自然の中で生きてる人間は、我慢強いし、健康ですよ。汗かいて帰って、おいしいビールを飲んで。ものつくることが楽しい、っていうことが体の中に入ってるのかもしれないですね。」
勉強熱心で使命感がありながらも、作物をつくる楽しさを感じておられて、こちらも清々しい気持ちになりました。