与謝野町の中でも、より山間部へと近づいていく滝・金屋・与謝エリア。水がよく、農地も豊富にあり、日本酒の酒蔵もある地域でありながら、地域の担い手が年々減少。様々な課題が浮上しているのも事実です。
そんな中、特定の誰かが地域を牽引していくのではなく、「地域全体で支え合うむらづくりを推進していこう」という動きが生まれています。それが、農村RMO(Region Management Organization)=与謝地域山村活性化協議会の取り組みです。
現在、農地管理の省力化、地域産品の復活と生産体制の確立など、様々な取り組みを試みている与謝地域山村活性化協議会の活動に触れました。
地域を消滅させない。互いに支え合う地域づくりを
RMOこと、与謝地域山村活性化協議会は、各地域の区長や農家など18名で構成されています。担い手が少なくなる中、地域ぐるみでこの土地を守っていくため、補助事業を活用しながらまずは3年計画で取り組みを進めています。
「旧与謝村、滝・金屋・与謝地域の状況は、限界集落どころか、今のままでは消滅集落となってしまうような場所です。農業の面では、平均年齢が71歳、これは、なんとかしないといけないということで、この協議会で取り組みをしていこうとしています。誰かが何か活動したい、というときに協議会がバックアップして、一緒に計画したりプロデュースしたり、地域づくりを支援する団体です。」
そう話すのは、協議会長(取材当時)の和田さん。和田さんは、この地域にあった保育園や小学校など、地域の人々の心の拠り所のような場所が次々になくなり、ついにはお寺の管理なども大変になってきていることに危機感を感じておられます。
「具体的にいくつかの取り組みを進めていますが、その中でまず、地域の状況を把握しようとしています。農業でいうと、それぞれの田んぼを誰が管理しているのかを図表化していきました。すると、このあたりは80歳の人がされているな、とか、状況がより分かってきます。ただ、詐欺や強盗などのニュースも多く、あまり踏み込むと不審に思われたりとか…でも、コンプラに縛られていては、発展する計画がつくれない。勇気を持って前に進まないといけないと思っています。」
リアルな現実を目の当たりにしながらも、なんとか前進しようとする和田会長と、協議会の皆さん。その他、どのような取り組みをされているのでしょうか?
かつての特産品「ころ柿」に新たな付加価値を
現在取り組まれている活動の1つの例が、こちらの「ころ柿」です。一般的には干し柿のこと。旧与謝村の特産物であったころ柿は、縁起物としてお正月に各家庭で1人1個食べるのが一般的です。
明治中期には農家の副業として盛んだったそうですが、現在の生産者は約10名と大幅に減少。なんとか復活を図ろうという試みです。
「ころ柿は生産者組織のみなさんがすでに生産し始めています。協議会としてはそれに関わって、視察の費用だったり、後方支援を行っています。今後は機械を使っての生産試験をしていく予定です。」
与謝野町には柿の木がたくさん存在していますが、そのほとんどが生かされていないとのこと。また柿の収穫適期は1年のうちに10日しかなく、その10日間のうちにすべて収穫しなければなりません。様々な課題はある中で、解決策を探り、石川県の志賀町での先進モデルから学ぶことに。
「石川県に勉強に行かせてもらって、2年目になります。そちらのモデルで、冷凍庫と特製シートを活用すれば収穫時期を急がなくてもいいことが分かりました。その他にも生産者が自宅でする柿の乾燥日数を短くできたりと、いろいろ勉強になっています。」
ころ柿は、収穫した柿の皮を向いて軒下に干して乾燥させます。しかし気温が高いと腐って落ちてしまうというリスクが。これを一定して平常化したいという思いもありました。この課題についても、石川県での視察で教えていただいた製法を用いれば、安定的に熟成させることができます。
「今後は、あんぽ柿、柔らかい干し柿に着手していこうとしています。スイーツとして食べるには、あんぽ柿のほうが格段にうまいし、付加価値もつきます。今は各家にある柿の木、という程度で、柿園は無いので、柿園もつくる予定にしています。」
管理体制が整いつつある、ころ柿のプロジェクト。さらにはあんぽ柿という新たな付加価値も加え、さらに生産拡大していきます。
不在の多い農地の省力化「自動給水器 うるった君」
また別の取り組みとしては、水田自動給水装置「うるった君」導入の取り組みがあります。機能としてはとてもシンプルで、米を育てる田んぼに水がなくなると自動的に水を入れ、一杯になると止まる、というもの。機能はシンプルですが、実は大きな意味があります。
「不在の人にとっては、ものすごい効果で、便利です。この地域にも不在地主というのがいて、与謝出身だけど、京都市内に世帯を持っているとか。でも米づくりには来られています。雑草は除草剤をまけても、水の管理はできないので、そういう人にはとても便利です。」
さらには、肥料など様々な資源の価格が高騰する中、抑えられる経費は抑えないと経営が成り立たないという面もあります。そのための省力化につながっているといいます。
「うまく管理できれば水張り、田植えなども計画的にできるので、集落全体で農業がやっていけるようにできればと。田んぼが荒れたら、ススキが生えて、虫が出て、イノシシが出て、嫁さんも来ない、住む人がいなくなる、と。食料の問題だけではなくて、農地を守るというのは地域を守るということですね。」
自動給水装置そのものは、1つの機能をもたらすものですが、その目的には大きな意味がありました。
農地をみんなでシェアする取り組み「市民農園」
農地を複数の人でシェアし、農業をしてみたい人が始められる支援をする取り組みも始まっています。それが市民農園、農地の貸出の取り組みです。
「もともとの目的は耕作放棄地の活用でした。それをなんとかしないといけない、というニーズがもともとあったものです。その第1段として、金屋地区に4畝、貸し出せる農地をつくりました。」と、協議会の事務局と広報を担当している原さん。
募集の際にはチラシも作成し、ポスティングをしてPR活動。現在、地元の方3名がこの市民農園を利用し、作物を育てています。利用料は、現在初年度のため無料でスタート。やりたい人が今後増えてくれば、畝を増やすことも視野に入れています。
「普段はこの市民農園には誰もいない状態ですが、何か聞きたいことあれば、世話役をしてくれている地域住民の方が対応してくれています。基本的には教える人はいなくて、自由にやってもらっています。ただ、畝には肥料が混ぜ込んであって、マルチまではってあるので、本当に植えるだけで始められる農園です。」
ひと畝6〜7m、それが6〜7本ほどある市民農園。農家ではなく、一般の方で普段別の仕事をしている人でも利用できます。仕事帰りに寄って、少し世話をするということも可能。
現在はまだ新しい取り組みで、町全体に浸透していないので、今後さらに浸透を図っていきます。
馬と触れる体験で町に新たな魅力を
こちらはまた違った角度での取り組み。「馬大好き」なメンバーが寄り集まって、本当に与謝野に馬を迎え入れてしまいました。与謝野の農業法人、(有)あっぷるふぁーむのメンバーが中心となって進めている、「馬」を軸にした地域の魅力づくりの活動です。
「これは、会社としての方針というよりも、何人か馬の好きな人が集まって、こういうこと出来たらいいな、というところからの始まりでした。」
そう話すのは、あっぷるふぁーむ代表の山本さん。ご自身も馬が好きで、この活動を始めたのだとか。自分たちの「好き」を実現する中で、協議会の支援も受けながら形にしていったそうです。
「乗馬クラブを経営しようとか、そういうイメージはあんまりないんだけど、馬と触れ合う、ふれあい体験みたいな形で、直接どういうお金儲けをするかというより、この地域を知ってもらえる一つの窓口みたいなことができたらと思っています。それと、ああいう若い衆を引っ張ってくるにしても、一つの魅力になると思って。」
山本さんが「ああいう若い衆」と言っているのは、「京都・農と暮らしのインターン」の制度で与謝野町にやってきた、福井県出身の長島さん。そして、地域の採用課題支援業務に従事し、自身は飲食店兼ゲストハウスを開業されている、五井さんのお二人です。
「元々は工場で働いてたんですけど、何か生き物と仕事しないなと思って。」と話す長島さん。最初はあっぷるふぁーむの畜産部門のほうで研修を受けたそうですが、その後島根県に研修に出向き、馬の世話をするようになったのだとか。
2頭いる馬、ソテツ君(左)とスポッツ君(右)。実はソテツ君のほうは、長島さんが研修先で一人1頭で担当していた馬なんだそうです。「もう、かわいくって、そのまま連れて帰っちゃいました」と、無邪気な笑顔を見せてくれました。
今後は馬とのふれあい体験や、ホースセラピーといったことができないかを模索中。まずはできる範囲からやっていこうという段階です。
一方、また違った観点で、農業分野にも関わりの深い取り組みがありました。
「協議会のイメージにもあるように、農業が難しくなった耕作地に馬を放すことで、管理していけるのではないか。馬が草を食べてくれるんで。」と山本さん。
耕作放棄地の草を処理するのは、かなり大変な作業。でも馬を連れていくことによって、それは「ごはん」に変わるのです。非常に面白い発想。簡易的な電気柵をはってはいますが、今のところ逃げたり、飛んで出たりなどもしないそうです。「ソテツは、本気出したら飛び越えるんだろうけど」と長島さん。
実際に草を食べているところを見せてもらいましたが、たしかに。無心に草を食べ続け、みるみる雑草が減っていく様子が分かりました。
こちらも、今後の可能性の広がりに期待したい取り組みです。
地域全体で互いを支え合うために
協議会ではその他にも様々な取り組みを支援、推進しています。
スマート農業の推進ということで、水田の見回りにドローンを活用する取り組み。協議会の中に免許を持った方が在籍しており、作業状況や生育情報、台風後の状況など、地域全体を一元的に知ることができます。現状は撮影した動画をYoutubeにアップするなど、PR的な意味も強くなっています。
その他、ホームページ「与謝野農園」の立ち上げや、SDGsワークショップ、与謝野ホップの集荷場として、旧保育園跡の活用を計画するなど、地域課題解決のための活動を、様々な角度から推進中です。
誰かが立ち上がらないといけない。でも一人の力ではどうしようもない。「地域で支え合うむらづくり」を形にしていくために、与謝地域山村活性化協議会の活動は今後も続いていきます。